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執筆者の写真新谷 恭明

痛い

 一週間ほど前のことだ。夕食に軽く呑んで、その夜は早めに寝た。ところが酔い覚めということもあってかなかなか寝付けない。いや、眠っているのだろうが、意識が覚醒しているみたいな感じで思考しているのだ。そして、身体がこわばっている。金縛りほどではないにしても、動かしにくい。動かしてこわばりを解いて身体をほぐすと目が完全に冷めてしまうのではないかと思い、悩んでしまう。

 そうなのだ。最近思うに朝まで寝返りをうっていないのではないかと思うくらい目覚めたときに身体が硬直している。ちょっと前には目覚めたら強烈に肩凝りがしていた。それでじっとしていたら、たぶん眠っていたのだろう。夢を見ていた。某国の諜報部員として活躍してゐる自分の夢であった。007シリーズを見直したり、「鬼滅の刄」を読み始めたりしていたから、そうした影響を多分に受けた夢のようであった。そうしたら通りかかりに犬の散歩をしている、おそらくは知り合いの老人とすれちがい挨拶をしたところ、その犬が僕の手にやんわりと噛みついたのである。上の歯が掌に下の歯が手の甲にあたるような噛み方だ。攻撃的に噛みついているのではない。甘えているような噛み方で、歯の感触が掌に感じた。

 そう言えばその日スライサーを買ったのだが、安全のために野菜を押さえるプラスチックの蓋のようなものがあり、それを洗おうとしたら野菜を押さえて話さないためのとがった突起が内側にあって、そいつがつかみにいった僕の親指の腹にガッツリと食い込んだ。それと同じ感触だ。出血するほどではないが、けっこう痛い。その痛みと同じ痛みが犬の歯のあたる掌の真ん中あたりに感じるのだ。むりやり引っ張れば掌は裂かれてしまう。じっとしていれば怪我はしないがとがった犬の歯が掌に食い込む状態は変わらない。そして、痛みを感じ、その痛みがだんだん現実味を帯びてきた。

 「これはいかん」

 その老人に犬を放すよう懇願したかったが、それよりは目を覚ました方がいいだろうと、身体の力を抜いて目覚めモードにしていった。そうしたら徐々に掌の痛みは実感を伴って強くなってきた。かみさんがトイレから戻ってくる気配で完全に目覚め、時価を問うと6時半だと言う。この日は早く出なければならなかったので、起きることにした。にもかかわらず掌の突き刺さる痛みは消えない。起きて朝刊に目を通していたら、カミさんが出てきて「ゴメン、まちがえた。5時半だった」と言い捨てると再び寝室に戻っていった。まあいい。どうせ早く出なくてはならないし、早寝だったので睡眠時間も足りている。そのまま朝刊に没頭した。しかし、掌の痛みは続いていた。そして、一週間も経った今も掌に犬の歯が食い込んだような痛みの感覚が残っている。



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